本書は、安吾が「不連続殺人事件」を連載した『日本小説』の編集者であった渡辺彰(大正7〜昭和48)の旧蔵手沢本で、字句の修正や初出テクストとの異同など、鉛筆による多くの書込がございます。
渡辺彰については、坂口安吾デジタルミュージアム(https://ango-museum.jp/history/person/)の当該項目をご覧いただければお分かりのように、安吾のそば近くにいて、晩年まで秘書代わりを務めた方です。またWikipediaには、「以前から雑誌『日本小説』記者・渡辺彰に小説の執筆依頼をされていたともされ、荏原郡矢口町字安方(現・大田区東矢口)の安吾の家で毎週水曜日に行われていた飲み会に参加していた渡辺彰が、そこで焼酎を飲んだ後に喀血したことに責任を感じた安吾が、渡辺の療養費のために『不連続殺人事件』の原稿料を彼に回し、安吾自身は出版社から報酬を貰わず、雑誌連載中に行われた読者への懸賞金も、安吾の自腹から出していたという。」とも書かれています。
本書は、安吾の知られざる文学制作や人間関係の機微について、新たな解明をもたらしうる無二の貴重な一次資料かと思います。書物自体は、決して良い状態ではありませんが、安吾研究に光を当てるリソースとして活用していただければ、さいわいでございます。